[007]従業員の個別同意なく、配置転換は命じられないのか?

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1. 出発点:X社の舞台

東京の中心部にある中堅企業、X社。その社長であるAは、創業から20年を超える経験を持ち、企業の成長に尽力してきた。一方、従業員Bは、X社の販売部門で活躍する優秀な社員であり、業務に対して真摯に取り組んでいた。Bは自らの契約が職種限定の合意に基づいていることを理解しており、販売業務以外の仕事に就くことはないと信じて疑わなかった。

この信頼関係は、A社長とBの間で交わされた契約に基づくものであり、Bは自らの業務範囲が限定されていることを明確に認識していた。しかし、ある日突然、Bの生活は大きく変わることになる。


2. 予兆のない配置転換

ある日、Bは突然、A社長から人事異動の通知を受ける。その内容は、Bが販売部門から総務部門に異動するというものであり、業務内容も全く異なるものに変更されるという驚愕のものであった。Bはその通知を手にして、言葉を失った。これまでの契約書には、明確に「販売業務に従事すること」と記載されており、変更の余地はないはずだと思っていたからだ。

BはすぐにA社長に直接、この異動の理由を尋ねたが、A社長は「経営上の必要性からであり、企業の成長のためにはこのような変化が必要だ」と説明した。しかし、Bは納得できなかった。自らの契約に反する命令であると感じ、その場で返答を保留した。


3. 弁護士の助言

Bは、冷静に考えた後、自身の権利を守るため、労働契約に詳しい弁護士に相談することを決めた。弁護士は、Bが契約書に基づいて職種限定の合意を交わしていたことを認め、その契約内容に従うべきだと指摘した。そして、BがA社長に一方的に配置転換を命じられたことが違法である可能性が高いと伝えた。

「このような配置転換命令は、法的には無効です。契約書に記載された職種限定の合意に基づき、Bさんにはその職務を変更する権限はありません。」弁護士はそう説明した。

さらに弁護士は、過去に最高裁判所が同様の事案について判決を下しており、職種限定契約に基づく合意がある場合、使用者側は従業員の個別同意なくその職務を変更することはできないという原則を強調した。この判決は、Bのケースにおいても適用される可能性が高い。


4. 訴訟の決意

Bは、自身の立場を守るため、訴訟を起こす決断をした。訴訟を起こすことで、BはA社長に対して配置転換命令の無効を主張し、損害賠償を請求することを決めた。弁護士は、Bの訴えを全面的に支持し、訴訟に向けて準備を始めた。

訴訟が進む中で、X社はBの配置転換命令が法的に無効であることを認めざるを得なかったが、A社長は依然として経営の必要性を強調し、配置転換が避けられない状況であったと主張した。しかし、裁判所はその主張を認めることはなかった。

裁判所は、Bが契約に基づいて販売業務に従事することが約束されていたことを確認し、A社長が一方的に配置転換を命じることは違法であると判断した。さらに、Bがこの配置転換によって精神的なストレスや業務の不安定さを感じていたことを考慮し、A社長に対する損害賠償請求を認める方向で審理が進められた。


5. 高裁での再審理

第一審での判決を受けて、X社は控訴し、高裁で再審理が行われることとなった。X社は、依然として経営の必要性を主張し、Bの異動が企業の経営上不可欠であったと訴えた。しかし、Bの弁護士はその主張を完全に否定し、契約に基づく権利を侵害することは許されないと反論した。

高裁では、Bの主張が再度認められ、A社長の配置転換命令が違法であると確定された。高裁は、A社長がBに対して行った配置転換が職種限定契約に反し、またその過程でBが不利益を被ったことを認定し、損害賠償の請求を再審理することを命じた。


6. 企業の教訓と対応

この訴訟を通じて、A社長は企業の労務管理に対する認識を改めざるを得なくなった。従業員との契約内容がいかに重要であるか、そしてその契約に基づく権利を無視することがいかにリスクを伴うかを痛感した。A社長は、今後の労務管理において、従業員との合意内容を厳格に遵守することを決意した。

X社の弁護士は、企業の労働契約書や就業規則の重要性を強調し、今後は従業員との合意内容を文書で明確に記載することが不可欠であることをA社長に伝えた。これにより、X社は従業員との信頼関係をより強固にし、企業の経営を安定させるための取り組みを強化することを決めた。


7. 結末と教訓

Bは、この訴訟を通じて、自らの権利を守るために戦った結果、勝訴を収めることができた。Bにとって、この戦いは単なる職務の変更に関する争いではなく、自身の権利を守るための闘いであり、企業との信頼関係がいかに大切であるかを痛感する出来事となった。

A社長もまた、この事件を通じて企業経営の本質を見つめ直すこととなった。経営の都合だけで従業員を変動させることは、必ずしも企業の成長を助けるものではないことを認識し、企業の労務管理において従業員の権利を尊重することが最も重要であると考えるようになった。

この事件は、労働契約に基づく権利の重要性、そしてそれを守るために戦うことの大切さを企業と従業員の双方に教えている。

 


令和5年(受)第604号 損害賠償等請求事件
令和6年4月26日 第二小法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/928/092928_hanrei.pdf

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